2007年の基本合意から2017年11月の開館まで、「ユニバーサルな」ミュージアムをアブダビ北東岸の人工島「サーディヤート」島に作る、という夢のプロジェクトが実現するには、10年もの月日を待たなければなりませんでした。その理由のひとつは、世界的に著名な仏人建築家ジャン・ヌーヴェルの設計による「光の雨」を演出する大屋根の組み上げの困難さであったでしょう。巨大なそれは、訪れる人を圧倒します。「あらゆる光の効果を考えて、デザインを決定するまでに5年を要した」という大屋根は、40万個の独立した部品を組み合わせた総重量7500トンのドーム。昼は、砂漠の厳しい日照の98%を遮断して優しい「光の雨」を演出し、夜は9層からなる屋根の内部に組み込まれた光源から満天の銀河が演出されます。それは、近くから見ても遠くから見てもとても薄く見えます。それを遠くから眺めたとき、私は伝統的なヤシの繊維を編んだ籠を連想しました。それがひっくり返ったような形に見えるのですが、その下に立って見上げるとき、それは近くの浅瀬で大きく育っているマングローブの根の、複雑な絡み合いをイメージします。

 ミュージアムのロゴに注目してみましょう。何だか歌舞伎役者の隈取りのようですが、これは、大屋根を構成している複雑な鋼材の幾何学模様をイメージ化したものだということです。このように、このドームは、ルーブル・アブダビのシンボルそのものであるのです。

 この大屋根の具体的なデザインを担当したのは Buro Happold というイギリスのエンジニアリング企業でした。同社のウェブサイトを訪問しますと、彼らがこの建物を完成させたことをどれほど誇りに思っているかが伝わってきます。それによれば、5年間をかけたデザインのプロセスで、技術者達は、365日間、現地で砂漠の太陽の動きを観測し、建築家が要求した「光の雨」が最も効果的に交響曲を奏でる演出が可能な幾何学模様のベストな組み合わせは何か、を探求したとのことです。

ルーブル・アブダビ入口

 確かに、7,850個ある、それぞれが独立した星型の鋼材が複雑に組み合わさっていて、どことして同じ形がないようで全体的には不思議な統一を感じます。アラブ・イスラムといえば、幾何学模様による装飾が有名ですが、この屋根はその伝統から大きく跳躍しています。

 アルミニウムと鋼材によって作られているこの大屋根の厚さは5mもあり、中を人が歩いて掃除することもできるようになっているというから驚きです。